交通事故の相手が無保険だった場合の対処法

損害保険料率算出機構の調査によると任意保険に加入していない無保険車は、全国平均で約3割となっています。

事故相手が無保険車の場合は、対応も一筋縄でいかないことも……。

そこで、事故形態別に対応方法をご説明したいと思います。

はじめに、「あなたに怪我が無い場合」から説明いたします。

もし「あなたが怪我をしている場合」は、コチラからご覧ください。

*今回の内容は「被害者」の方を対象にしています。「加害者の方」は当てはまりませんので、ご了承ください。

あなたに怪我が無い場合

「0:100」事故の事故

相手が100%悪い事故、例えば相手が追突してきたり信号無視をした事故、駐車場に停止していたあなたの車に衝突した事故などです。

この場合は、あなたが車両保険に加入しているかどうかで対応が変わってきます。

車両保険に加入している場合

まずは、自分の保険会社に連絡をしましょう。

相手が100%悪いのだから、自分の保険を使うのは気が進まないかもしれません。

けれど、無保険の相手は、簡単には修理代を支払ってくれません。

そのため、自分の保険で素早く修理するのが得策です。

保険会社によっては、契約者さんに過失がない事故での車両保険の請求は等級に影響がない、というルールや「車両無過失事故に関する特約」があります。

(参考:「等級が下がる事故と下がらない事故」

もしこれが適用されているのであれば、迷わず車両保険を使ったほうが安心です。

保険会社は、車両保険であなたの車の修理代を支払った後、無保険の相手に請求をします。

支払いに応じない場合は、請求専門の部署に移管し、法的手続きをとることも。

これは、車両損害に関する賠償請求の権利を、保険会社に移したことを意味します。

車両保険に加入していない場合

あなたが車両保険に加入していないと、保険会社はあなたの代わりに、相手へ請求することができません。

全て自分で交渉することになります。

(参考:『0:100事故の場合って自分で示談交渉するって本当?』

まず、自分が信頼できる修理工場で見積もりをとってもらい、修理代を確定させましょう。

その後、修理をする前に、相手から修理代の全額支払いを依頼してください。

こうすれば、「修理をしたけれど相手が支払わず、結局自分が立て替えた……」という事態を避けられます。

お互いに過失が発生する事故

双方が動いている交差点での出会い頭の事故など、お互いに過失割合が発生する事故の場合は、保険会社にお任せしましょう。

自分にも過失があるので、保険会社の「示談代行サービス」を使うことができます。

事故報告をし、打ち合わせをしたら、後は保険会社と相手が交渉をすることになります。

保険会社にとって、無保険の方との交渉は珍しいことではありません。ご安心くださいね。

車両保険に加入していない場合

あなたの過失割合分は自己負担に、差額を相手に請求しなければならなくなります。

これを、「過失相殺」と言います。

言葉だけでは分かりにくいと思いますので、具体例で見ていきましょう。

【自分の過失30% : 無保険者の過失70%】

【自分の修理代30万円 : 無保険者の修理代20万円】

過失割合、修理代金がこれで決定したとします。

<あなたが無保険者に賠償すべき額>

無保険者の修理代20万円×あなたの過失割合30%=6万円

→対物賠償責任保険から支払われるので自己負担はありません。

<無保険者があなたに賠償すべき額>
あなたの車の修理代30万円×無保険者の過失割合70%=21万円

→相手に自分で請求しなければなりません。

もし対物賠償責任保険を使用して相手に修理代を支払うのであれば、相手があなたに支払うべき金額21万円から、相手にあなたが支払うべき6万円を差し引いて清算します。

よって

21万円(無保険者があなたに賠償すべき金額)−6万円(あなたが相手に賠償するべき金額)=15万円

となり、あなたは15万円を、自力で相手から回収しなければなりません。

しかし、相手が無保険者だとしても、相手の家族の保険が使用できるケースもあります。

また、運転していた車が借り物だと、所有者の保険を使用できたり「他社運転特約」の対象になることもあります。

それは自分も同じですので、合わせて確認するようにしましょう。

車両保険に加入している場合

保険を使用すると決めれば、車両保険からあなたの修理代が全額支払われます。自己負担はありません。

相手が支払うべきあなたの車の修理代は、保険会社が請求してくれます。また、相手との交渉を保険会社に委任することも可能です。

自分にも過失がある場合は、車両保険を使うことにより、等級が下がることになります。

あなたが怪我をしている場合

「0:100」事故や自分の過失が少ない事故

0:100事故や自分の過失が少ない事故で、怪我をしたのに相手が任意保険に加入していない!

こんな状況になった場合の、対処法をご紹介します。

「人身傷害保険」に加入している場合

あなたが人身傷害保険に加入していれば、問題なく怪我の対応をしてもらえます。

人身傷害保険は、対人賠償責任保険と同じく、怪我の治療費や慰謝料、休業損害といった補償を受けることができます。

対無保険者との事故で怪我をしたら、すぐに自分の保険会社に報告をしましょう。

人身傷害保険に加入していれば、交通事故のお怪我の治療費やお薬代の自己負担が出ることはほとんどありません。

医療機関の窓口で自己負担することなく治療を受けることができるので、なんら不便を感じることはないでしょう。

ほとんどの保険会社で、人身傷害保険のみを使った場合は等級に影響することはありませんのでご安心ください。

もちろん、保険会社はあなたに人身傷害保険の保険金を支払った後、相手の自賠責保険や相手に直接請求します。

もし「被害者なのに自分の保険を使うのは嫌だ!」「相手の態度に反省が見られず悔しい!」とお考えでしたら、「交通事故に強い弁護士」に相談するのがベストです

あなたが怪我をしている場合、弁護士に依頼すると、通常よりも高い慰謝料を請求することが可能です。

「搭乗者傷害保険」に加入している場合

もし、あなたが人身傷害保険の加入がなくても、「搭乗者傷害保険」の加入がある場合。

入通院の状況に応じて、一定の額が支払われる可能性があります。これは、自賠責保険から受け取れる、治療費や慰謝料とは別のものです。

「無保険車傷害保険」に加入している場合

あなたが無保険車傷害保険に加入している場合、人身傷害保険金の不足分についても保険金が支払われます。

この保険が適用される条件は

  • 契約車以外の自動車との事故である
  • 契約車の運転者に過失がなかったことが確定している
  • 相手自動車の登録番号等および事故発生時の相手自動車の運転者または所有者の住所・氏名が確認できている
  • 契約者が死亡または後遺障害が残る場合

とされています。

「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」に加入していない場合

この場合、あなたは相手の自賠責保険に治療費や慰謝料を請求しなければなりません。

自賠責保険は、最低限の対人賠償を確保することを目的としており、その限度額は低いものになっています。

そのため、限度額(傷害の場合120万円)を超える対人賠償は、任意保険でカバーするようになっています。

しかし相手が無保険(任意保険未加入)となると、あなたの怪我を相手の自賠責保険の限度額以内で済ます必要があります。

病院にかかる際は治療費を抑えるために、高額な自由診療ではなく健康保険を使用しましょう。

病院によっては交通事故の場合は、健康保険は使えないと言ってくることがありますが、そんなことはありません。

詳しくは「交通事故の治療に健康保険は使えないって本当?」を参照して下さい。

ただし、通常の診察と同じく病院の窓口で健康保険証を出せばいい、というわけにはいきません。
交通事故での治療の場合は「第三者行為による傷病届」の手続きが必要です。

第三者行為による傷病届出が必要となる理由

自動車事故等の、第三者行為によりケガをしたときの治療費は、本来、加害者が負担するのが原則です。

ただし、業務上や通勤災害によるものでなければ、健康保険を使って治療を受けることができます。この場合、加害者が支払うべき治療費を、健康保険が立て替えて支払うこととなります。

そして、協会けんぽが後日、加害者に対して健康保険給付した費用を請求します。

その際に「第三者行為による傷病届」が必要となりますので、すみやかに提出をお願いします。

引用元:第三者行為による傷病届等 全国健康保険協会

また、自賠責保険の請求方法は、「加害者請求」「被害者請求」の2通りがあります。

その名の通り、事故の加害者が治療費などを立て替えて支払い請求するのが加害者請求、被害者が治療費を立て替えて請求するのが被害者請求です。

どちらの手段を取るのかは、加害者と相談して決めなければなりません。

加害者がしっかりしている人だなと感じれば加害者請求をするように依頼し、治療費などの実費は全額加害者に支払ってもらいましょう。

しかし、加害者の対応に不安を感じたら、自分で被害者請求をしたほうが安心です。

どちらにせよ、自賠責保険を初心者の方が請求するのは、とても大変な作業です。

こういった状況になってしまったら、弁護士に依頼するのがおススメです。

なぜなら、慰謝料が自賠責保険の限度額より多くもらえる可能性があるからです。

理由を説明します。
慰謝料を決める際に使われる基準は下記の3つです。

  • 自賠責基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士基準

それぞれ金額が異なり、多い順に並べると 『弁護士基準 > 任意保険基準 > 自賠責基準』となります。

一番高い「弁護士基準」に切り替えるだけで、慰謝料が増額できる可能性があります。

どうすれば弁護士基準にできるかというと、弁護士に依頼するだけでOKです。

「弁護士費用特約」に加入している場合

もしあなたが弁護士費用特約に加入している場合は、弁護士費用を規定された料金まで、保険で負担してもらえます。

また、弁護士費用特約は「同居の家族が交通事故の被害にあった場合」に利用できると定められているものもあります。

つまり、あなたが弁護士費用特約に加入していなくても、同居の家族が加入していれば利用できる場合があるんです。

また、自動車保険だけでなく火災保険にも弁護士費用特約が存在します。他の保険で重複していないか、確認してみて下さい。

後述しますが、無保険の方を相手に賠償の交渉をするのは、簡単なことではありません。

もし加入していたなら、ぜひ弁護士に相談してみましょう。

相手が「自賠責保険」に加入していない場合

今回のテーマは「無保険車=任意保険未加入」としましたが、世の中には自賠責保険にすら入っていない人もいます。

私の経験によると、全体の1割くらいが自賠責保険に入っていないという感覚です……。

その上、あなたが人身傷害保険や搭乗者傷害保険などに入っていない場合は、相手に治療費などを、全額自腹で支払ってもらうことになります。

相手がしっかりと治療費や慰謝料を支払ってくれればよいのですが、自賠責保険に入っていない人が真摯に対応してくれるのは、残念ながら稀なことです。

「お金がない」と言って支払わなかったり、音信不通になったりすることがほとんど。

そういう場合の救済として、「政府保障事業」という制度があります。

政府保障事業は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済)の対象とならない「ひき逃げ事故」や「無保険(共済)事故」にあわれた被害者に対し、健康保険や労災保険等の他の社会保険の給付や本来の損害賠償責任者の支払によっても、なお被害者に損害が残る場合に、最終的な救済措置として、法定限度額の範囲内で、政府(国土交通省)がその損害をてん補する制度です。

引用元:国土交通省 政府保障事業について

実際の窓口は、民間の保険会社が担当します。

ただし、任意保険のように「加害者さんが窓口で負担をしなくていいように手配をしておきますね」という手続きは取れません。

全額自己負担した後で、書類を整えて請求することになります。

限度額は自賠責保険と同じ基準です。

ちなみに、「自賠責保険に入っておらず任意保険に入っている」という方もいます。年に数件ほどの事例です。

その場合は、加害者の方が自賠責の分(治療費など)を支払い、超過した額は任意保険の会社が支払います。

そして自賠責部分のうち、各保険会社の約款に基づき認定した部分だけを返金します。

あなたが仕事中だった場合

仕事中に交通事故に遭った場合は「労災保険」が使用できます。

労災保険とは
労働者が業務上の事由又は通勤によって負傷したり、病気に見舞われたり、あるいは不幸にも死亡された場合に被災労働者や遺族を保護するため必要な保険給付を行うものです。
引用元:労災保険の特徴|厚生労働省

ただし、相手の自賠責保険と労災保険を二重に使用することはできません。

では、どちらを使用した方がいいか。

相手が無保険車の場合は、一般的に労災保険の方が有利と言われています。

自賠責保険の場合は限度額がありますが、労災保険は限度額が設けられていないため治療が満足に行えるからです。

労災の申請は、「第三者行為災害届」を労働基準監督署に提出して給付請求します。

詳しくは「第三者行為災害のしおり|厚生労働省」をご覧ください。

示談書の注意点

示談を行った場合は、「示談書」を作成する必要があります。

示談書のひな形はこちらからダウンロードできます。

相手との話し合いをして、支払いが滞りそうだという場合には、示談書を公正証書の形にしておくと良いでしょう。

公正証書とは
公正証書とは,私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により,公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。

 一般に,公務員が作成した文書を公文書といい,私人が作成した私文書とは区別されています。
公文書は,公正な第三者である公務員がその権限に基づいて作成した文書ですから,文書の成立について真正である(その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたものである)との強い推定が働きます。

これを形式的証明力ともいいます。文書の成立が真正であるかどうかに争いがある場合,公文書であれば真正であるとの強い推定が働きますので,これを争う相手方の方でそれが虚偽であるとの疑いを容れる反証をしない限り,この推定は破れません。公文書が私文書に比べて証明力が高いというのは,このような効果を指しています。

引用元:法務省:公証制度について

また、修理代の請求を送る際は、内容証明で送付しておくとよいでしょう。

相手が「もらってない」と嘘をついて、支払いを先延ばしするケースも存在するからです。

内容証明とは
いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。
引用元:内容証明 – 日本郵便

これで送付した日付、内容、が公的に証明されます。

内容証明を送ることで、「請求を受け取った/受け取ってない」の水掛け論を防止できます。

それでも支払われない場合は「少額訴訟」を起こす、という手段もあります。

参考:『少額訴訟制度ってどんな制度?』

まとめ

読んでいただいた通り、無保険車との交通事故はとてもやっかいです。

特にもらい事故など自分に過失が無い場合は、相手と直で示談交渉しなければならず、災難でしかありません。

特に怪我をしている場合は、治療に専念するのが一番。弁護士に任せるのがおススメです。

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