交通事故の「賠償金」と「慰謝料」って何が違うの?
慰謝料と賠償金の違い
「慰謝料=賠償金」というのは大きな誤りです。
賠償金の中には、慰謝料も含まれています。
そもそも「慰謝料」とは、交通事故によって起きた、精神的損害に対する賠償金のこと。
損害賠償において怪我をした場合や死亡した場合、後遺障害が残った場合などに、受け取ることができるお金です。治療日数や、後遺障害の等級などに応じて、金額は変化します。
それに対して、「賠償金」とは交通事故で受けた被害に対して受け取ることができるお金の全てを指します。
正式には「損害賠償金」です。
具体的には、車や家などの修理代、代車費用、レッカー費用、怪我の治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害慰謝料、葬儀代、など。
俗に示談金という言葉がありますが、示談金も損害賠償金の全てを指します。
「損害賠償金」の請求ができるのは、基本的に被害者本人です。被害者が死亡してしまった場合は、相続人(配偶者や子、父母など)となっています。
賠償義務者と呼ばれる請求される側は、もちろん加害者本人ですね。そのほかにも加害者の雇主や、加害者が未成年の時はその親が責任を負います。
交通事故の際に被害者が請求できる損害賠償金は、「慰謝料」のほかに「積極損害」「消極損害」「物損」などが該当します。
車やバイク、家やガードレールなど物損の損害賠償金と、怪我をしたことによる「積極障害」や「消極障害」の賠償金は全く計算方法や考え方が異なります。それぞれを分けてお話ししていきますね。
物損編
車や家などのモノに対して支払われる損害賠償金
いわゆるモノが壊れた時に支払われる、一般的な損害賠償金はこちらです。
現状復帰のための修理費用、もしくは時価額
日本における損害賠償の基本は「現状復帰」です。
現状復帰とは、事故前の状態に戻すこと。
車であれば修理して、事故前と同様に乗ることができるようになることが原則です。
ただし、壊れてしまったモノの修理費用が時価額(事故時の市場価格)を上回ってしまった場合=「経済全損」や、物理的に修理することができないほど大破している場合=「物理的全損」の場合は、時価額が賠償されます。
(全損の詳細は「交通事故で車が全損扱いになった場合に、もらえるお金のまとめ」をご覧ください。)
代車費用
車の修理中に代わりの代車(レンタカーや修理工場の代車)に乗るための費用です。
原則として100:0事故の被害者さんのみに認められます。
帰宅費用
事故のせいで車が壊れ走ることができなくなってしまい、電車やタクシーで自宅に帰ることになってしまった場合は、電車代やタクシー代が支払われます。
ただし、車に乗って帰った場合に必要だった経費は差し引かれます。
例えば事故現場から自宅までのタクシー代が20,000円、車で自宅に帰った場合は、高速代が3000円、ガソリン代が500円かかったとしますよね。
そうすると、【タクシー代20,000円】から【高速代3,000円+ガソリン代500円=3,500円】をマイナスした16,500円が支払われます。
宿泊費用、キャンセル費用
宿泊費用やキャンセル費用は、請求された金額が支払われます。
しかし、元々泊まるはずだったホテルをキャンセルし、別のホテルに泊まることを余儀なくされた場合は異なります。
先ほどのタクシー代の例と同様に、「本来かかった金額」、つまり元々宿泊するホテルの代金を差し引くことになります。
例えば【1泊10,000円のホテルA】に宿泊するはずだったのに、事故のせいでホテルにたどり着くことができずキャンセル費用が50%かかり、別の【1泊7,000円のホテルB】に泊まることになった場合。
ホテルAには5,000円を支払い、ホテルBに7,000円支払わなくてはならないので、【ホテルAへのキャンセル費用5,000円+ホテルBの宿泊費用7,000円=12,000円】の支出となります。
しかし、保険会社から支払われるのは、本来ホテルAに支払うはずだった10,000円との差額、2,000円となります。
「なんだか計算が面倒だし、事故で迷惑をかけられているのに不親切」と思うかもしれません。
しかし、民法416条に則った損害賠償請求における過去の判決では、事故で損害が発生した場合、加害者だけではなく被害者さんも「損害を最小限に収める努力をしなければならない」とされています。
決して保険会社が支払いを渋っている訳ではないのです。
全損になった場合の時価額の基本
さきほどの全損と時価額のお話を、もう少し掘り下げてみます。
車とそれ以外のモノでは少し違いますので、別にお話しますね。
車については「交通事故で車が全損扱いになった場合に、もらえるお金のまとめ」をご覧ください。
車以外のモノ編
車は市場に多く中古が出回っていますので、ある程度 画一的に時価額を算出しますが、それ以外のモノはケースバイケースです。
(時価額の概念があまり適用されないモノ)
不思議なことに、保険会社の現場ではガードレールや信号・家・塀などに、時価額の概念が適用されないことが多いのです。
明らかにぼろぼろで茶色く錆びたガードレールって街中にありますよね。
10年以上前に設定されて、事故で壊れる前から、ほぼ壊れているようなガードレール。
車に当てはめると、事故前から「全損」状態で修理できないはずです。
しかし、なぜかガードレールやカーブミラー、信号や塀には時価額の概念を登場させず新しいものを設置する費用が支払われます。
家も同じです。
築50年の家に激突して大穴が開いてしまった、という事故で時価額の概念が登場することはありません。
被害者にとってはありがたいことですが、第三者の視点から見れば、ちょっと矛盾を感じてしまいますね。
もちろん、被害者さんが明らかに法外な費用を請求した場合は時価額のお話をすることになります。
もしあなたの大切な家や塀などが事故で壊されてしまったら、無茶なことは言わずに「元どおりに修理してください」と伝えましょう。
時価額の概念が適用されるモノ
洋服やCD、DVD、パソコン、バッグ、バイクのヘルメット、スノーボードやサーフボードなどの日用品の場合です。
これらは、時価額の範囲内で修理できれば、修理費用が支払われますし、修理代が時価額を超えてしまった際には時価額が支払われます。
車と違ってレッドブックのような基準がありませんので、担当者が自分でオークションサイトや中古品サイト、などで市場価格の平均を調べます。
画一的な基準がない分、担当者の裁量に任せられる部分が多いようです。
積荷損害
車に積んでいた荷物も、損害があれば「積荷損害」として請求をします。ただ、正確に損害を把握して計算するのは難しいのが現状です。
もし請求する場合は、まず担当者に相談してみてください。弁護士など、専門家と相談して決めていくことをおすすめします。
プロしか知らないマニアックな賠償金
100:0事故の被害にあった場合、保険会社から受け取れる損害賠償金は、車の修理代(修理できなければ時価額)、代車費用、レッカー費用、帰宅費用などとお話ししました。
しかし、実は請求すれば、100:0の被害者さんであれば誰でも受け取ることができる賠償金がまだあります。
それが、「修理工場までのガソリン代」と「代車との燃費差」です。
まずは修理工場までのガソリン代についてご説明します。
車を修理工場にまで持ち込むために自分で運転していった、もしくは修理工場の人が運転した、という場合ガソリン代がかかりますよね。
(走行することができずレッカーを依頼した場合は、レッカー代の実費が支払われます)
ほとんどの人はガソリン代を請求しませんし、思いつかないかもしれません。ですが、実は保険会社としては請求されれば拒否する理由がない費用です。
郊外に住んでいて最寄りの修理工場まで最低でも1時間かかるよ、という人は請求してみましょう。
支払われる金額は多くの場合、自賠責保険の交通費計算と同じ1㎞15円です。
修理工場まで10キロあるよ、という場合は【15円x10㎞x往復=300円】となります。
請求する場合は、保険会社に申し出た上で、修理工場までの道順と距離がわかる地図を提出しましょう。
大きな金額にはなりませんが、ちょっとだけ賠償金がアップされますね。
お次は「代車との燃費差」です。
これも100:0事故の被害者さんに限ります。
代車と自分の車の燃費が大きくかけ離れている場合はその差額を請求してみましょう。
自分の車は燃費30㎞だけど代車は燃費が13㎞という場合、燃費差を請求することができます。
代車で100キロほど走行した場合、燃費30㎞であればガソリンは3リットル強で十分ですが、燃費13㎞となると8リットル弱、必要になります。
だからその差額、5リットル分を請求することができます。
1リットル当たり、130円とすると、650円を受け取ることが可能です。
請求する場合には、ガソリン代のレシートを提出しましょう。
代車がレンタカーの場合は、レンタカー会社に確認すれば、自分が走行した距離も教えてくれます。
もし、修理工場が遠すぎてガソリン代がかかってしまったり、代車の燃費が悪すぎたり、という場合は請求してみるとよいでしょう。
もらえる「かも」しれない賠償金
今度は請求すれば、受け取ることができる「かも」しれない賠償金です。
代表的なのが、「格落損害」「休車損害」「過失割合が双方に生じる事故の代車費用」です。
これは絶対に賠償しなければならないものではなく、請求しても却下されてしまう可能性がかなりあります。
それを注意した上で、説明をご覧くださいね。
格落損害
簡単に言うと、事故が原因で将来の車の買い取り価格が下落してしまうことに対する補償です。
これが支払われる条件は以下の通りです。
- 100:0事故であること
- 車の損傷が骨格まで及んでいること
- 新車登録から日が浅いこと
お互いに過失が発生する事故では、認められるケースはほとんどありません。
シャーシと呼ばれる車の骨格まで壊れていることが前提です。
バンパー交換やドア交換できれいになるケースでは認められません。
購入して1年以上経過していると、なかなか認められないかもしれません。
これらの条件を満たしている場合には保険会社に「買い取り価格が落ちるかもしれないんですが、その補償はしてもらえるのでしょうか?」と聞いてみましょう。
その時のポイントは、冷静に、丁寧に、です。
感情的にならずに穏やかに交渉をしましょう。
上記の条件を満たしていれば受け取ることができる可能性はゼロではありません。
休車損害
事故にあった車がいわゆる緑ナンバー(営業車)だった場合、レンタカーを手配することができませんよね。
白ナンバーのレンタカーでは緑ナンバーのお仕事はできません。
修理期間中は、その車は仕事ができない、ということになってしまいます。
そこで発生するのが、仕事ができないために発生する損害です。
もし本当に修理をしていることを理由に仕事を断っていた場合には、「休車損害」を受け取ることができます。
仕事を断らず、他の車をやりくりして仕事をなんとか回せた、という場合には支払われません。
請求する場合は、過去数カ月の事故車と他の車の稼働状況や、人件費、ガソリン代などの必要経費がわかる書類、などが必要になります。
支払われる費用は「売上」−「経費」です。
休車損害を受け取るためには、「修理をしているせいで仕事を断った」ことを被害者さんが証明する必要があります。そのため、少し手続きや必要書類が面倒かもしれません。
過失割合が双方に生じる事故の代車費用
原則として代車費用は「100:0事故に限る」のですが、例外として90:10や80:20といった事故の過失割合が低い方にも認められるケースがあります。
どうしても自分で代車を用意することができず、車がなければ生活できない地域や環境の場合、保険会社によっては認定してくれる場合があります。
ただし、認められるのはレンタカー費用の過失分のみです。
レンタカー代が日額5,000円、過失割合が90:10だとすると、1割の500円は自己負担となります。
修理工場が提供してくれる代車の費用は認められません。
人身編
交通事故が原因で怪我をした場合、加害者がいれば加害者の加入している対人賠償責任保険で対応してもらいます。
被害者さんの窓口は加害者側の保険会社の人身担当になります。
物損の場合とは異なり、様々な補償を受けることができます。
「積極損害」とは、事故が起きたせいで、被害者が止むを得ず出費をしなくてはならなかった損害のこと。
「消極損害」は、被害者が将来得るはずと予測される利益が、事故で喪失したことによる損害のことです。
それぞれを説明していきますね。
積極損害
治療費
怪我をして通院した費用が全額支払われます。
ただし、保険会社が認めた、病院、整骨院、接骨院の治療費のみです。
柔道整復師の資格を持たない、保健所の許可を得ていない、というマッサージ屋さんでは、治療費は支払われませんのでご注意ください。
基本的には「治癒」もしくは「症状固定」まで、治療費は支払われます。
治癒や症状固定、治療期間については、揉めがちな部分ですのでのちほど詳しくお話ししますね。
特に整骨院と接骨院は、一定の条件を満たさなくてはならないケースが多いようです。通院する際には確認しておきましょう。
付添看護費
入通院のために家族や親戚、ヘルパーさんなどが付き添った場合に支払われます。また、被害者の年齢や怪我の程度によっても変化するようです。
入院であれば1日あたり6,500円、通院であれば1日3,500円が相場です。
ただし、診断書や医師のアドバイスによって付添が必要だと認められた場合に限ります。
入院雑費
入院1日あたり1,100円から2,000円程度が支払われます。
電話代や日用品の購入費用という名目です。
通院交通費
基本的にはバスや電車などの公共交通機関の実費、もしくは自家用車のガソリン代です。
ガソリン代は1kmあたり15円で計算されることが多くなっています。
これらの交通手段を利用することが難しい場合のみ、タクシー代の実費が認められます。
葬儀代
事故が原因で死亡した場合に支払われるお金です。
お葬式代の他に、仏壇やお墓を新設する費用も含まれます。
消極損害
休業損害
事故による怪我のために、会社を休んだ場合に支払われます。
有給休暇をとった場合でも、休業損害の支払い日数にカウントされます。
休業損害を請求するためには、給与を証明する源泉徴収票や、事故前の勤務実態がわかるタイムカード、さらに休業したことを証明する休業証明書などの提出が必要です。
ちょっと難しそうな書類が並んでいますが、休業のことを担当者に伝えていただければ、わかりやすく説明してくれることでしょう。ご安心くださいね。
専業主婦の方でも、通院した日に限り日額5,700円が休業損害として支払われる場合があります。あきらめずに、まずは確認してみましょう。
逸失利益
逸失利益とは、事故により、死亡もしくは後遺障害を負った場合、将来受け取ることができるはずだったお金のことです。
ごくごく簡単に説明すると、死亡の場合は平均余命まで生きたと仮定し、生涯年数から生活費などを差し引いたものが支払われます。
原則として、後遺障害の場合は将来受け取ることができるはずだったお金が減ってしまった場合のみ支払われます。
後遺障害の程度が軽度で、業務に影響がなくお給料が減額されなかった場合は支払われません。
それでも逸失利益を主張する場合は裁判を起こすことになります。
裁判となった場合も、逸失利益が認められるのはケースバイケースで、確実ではありません。
慰謝料〜基準は3つ
後遺障害がない怪我の慰謝料は、治療期間もしくは治療日数に応じて支払われます。
計算方法は3つあります。
「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」です。
自賠責保険の範囲内(詳しくは「自賠責保険と任意保険の違いって何?」をご覧下さい。)の場合、【治療期間 x 4,200円】もしくは【通院日数 x 4,200円 x 2倍】の少ない方の金額が適用されます。
自賠責保険の範囲を超えると、任意保険会社の基準で支払われます。これらは、保険会社で独自の基準が設けられています。
弁護士に交渉してもらう場合、ほか2つの基準よりも高額の慰謝料が期待できます。
弁護士に依頼をしていないのに弁護士基準の慰謝料が支払われることはほぼありませんが、弁護士に依頼をすれば慰謝料増額の可能性はかなり高くなるでしょう。
示談成立後でも受け取ることができる賠償金がある
原則として、お互いが納得し示談書に署名捺印をした時点で、示談書に明記されていない賠償金は受け取ることができません。
しかし示談時にはわからなかった損害が後からわかった際は、追加で請求できる場合があります。
怪我に対する賠償の場合、代表的なものが後遺障害です。
示談時には問題ないと思っていたけれど、その後経過がよくないために受診したところ後遺障害の診断を受けた。
このようなケースは、示談後でも賠償金を受け取ることが不可能ではありません。
ただし、基本的に示談後に賠償金を請求することはできないので、一筋縄で行かない可能性が高くなります。
相手の保険会社も「事故との因果関係がわからない」と、対応しない可能性も出てきます。
事故からしばらく時間が経ってしまうと、事故のせいで受けた傷だと立証できなくなります。
もし示談後にお医者さんが後遺障害と診断した場合は、早急に保険会社に連絡を取り話し合いの場を設けましょう。
場合によっては認められずに弁護士を介しての交渉、もしくは裁判になるケースもあります。
このように、示談後に後遺障害を認定してもらおうと思うと時間と手間がかかります。なるべく示談前にお医者さんと自分の症状についてよく話をしておきましょう。
相手の保険会社の対応がいまいち悪い、後遺障害を認定してもらえそうにない、と思ったら自分が加入している保険会社に相談してみるのも一つの手段です。
人身傷害保険に加入している場合、後遺障害部分だけを対応してもらうことも場合によっては可能です。
まとめ
賠償金には様々な種類があり、それぞれ計算方法、考え方が異なります。すぐに理解することは難しいでしょう。
もし保険会社の説明でわからないこと、不満なことがある時はその都度質問して解決するようにしてくださいね。
相手の保険会社とやりとりをしている中で不安、不満が消えない場合は自分の保険会社の担当者に相談してみると親身になってもらえるかもしれません。
妥当な金額はどの程度なのか、前例はあるのか、過去の事例などと照らし合わせていくことも大事です。
その際は、被害者という意識を過度に持たず、感情的にならないように。交渉は、あくまで冷静に行うのが一番です。
この記事を読んで、請求できる賠償金があるかも、と思ったら、早めに保険会社に連絡をして相談をしてくださいね。
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