一時停止を無視した相手と事故、過失割合はどうなるの?
今回は一時停止を無視して交差点に進入したバイクや自転車、車と接触した事故の過失割合をご紹介します。
一時停止を無視した「自転車と車」の過失割合
まずは一時停止を無視した自転車と車の過失割合です。
事故状況はこちら。
一時停止を無視した自転車と車が接触しました。
基本過失割合は『自転車が40%:車が60%』です。
修正要素
自転車にプラス5%
- 夜間
- 自転車が右側通行
自転車にプラス10%
・自転車の著しい過失
自転車にプラス15%
・自転車の重過失
車にプラス5%
・自転車が横断歩道を通行
車にプラス10%
- 自転車が児童や高齢者
- 自転車が一時停止
- 自転車が自転車横断帯通行
- 車の著しい過失
車にプラス20%
・車の重過失
私の経験上ではほとんどが基本過失割合の「自転車 40:車 60」もしくは自転車側に10%有利に修正して「自転車 30:車 70」で解決しています。
私が勤めていた保険会社の場合、自転車との過失割合の交渉はほとんどが人身担当者が行いましたので、慰謝料と抱き合わせトータルで被害者さん有利に交渉することが多かったようです。
ただし、自転車側に怪我がなく、賠償責任保険への加入がない場合は自転車側が高額な修理代を負担しなければならなくなり、揉めることもあります。
一時停止無視のバイクと車の過失割合
バイクが一時停止の標識がある道路を走行、車は標識がない道路を走行中、バイクが一時停止をせずに交差点内に進入したため接触してしまいました。
こちらの事故状況では、双方が交差点に進入した「速度」によって過失割合が変わりますのでそれぞれご紹介します。
ただし、こちらの判例はバイクが怪我をした人身事故のみ適用されます。
バイクに怪我がなくバイクと車のみが壊れている場合は、車同士の過失割合が適用されますのでご注意ください。
※「怪我」とは、通院して診断書が発行されていることを言います。
擦り傷はあるけど、病院には行っていない、という場合は人身扱いになりません。
過失割合
(1)両者が同じ速度
バイクも車も同じ速度で交差点に進入し事故を起こした場合は「バイク65%:車35%」になります。
(2)バイクが減速、車減速せず
バイクはスピードを半分程度まで落とし、車は全く減速せずに接触した場合は「バイク55%:車45%」です。
(3)バイク減速せず、車減速
バイクはスピードを緩めることなく交差点に進入し、車は半分程度まで減速した場合は「バイク80%:車20%」です。
(4)バイクが一時停止
バイクが一時停止をし、車が減速せずに交差点に進入した場合は「バイク45%:車55%」です。
それぞれの修正要素は著しい過失10%と重過失20%のみです。
バイク特有の著しい過失はヘルメットを着けずに運転していること、です。
また明らかに危険な乗り方をしている場合も重過失になります。
実例の紹介
今回は皆さんも一緒に過失割合を考えてみましょう。
バイクに乗っていた横山さん(仮名)と車の村上さん(仮名)が交差点で接触事故を起こしました。
横山さん側に一時停止の標識があります。
横山さんは転倒して全治2週間の打撲という診断書が発行されています。
事故状況をそれぞれに聞いた様子がこちらです。
横山さん「一時停止の標識があるのは知っていたんですが、急いでいたので止まらずに少しスピードを緩めて交差点に入ったら村上さんとぶつかりました。村上さんは全く減速していなかったと思います」
村上さん「私の方には一時停止の標識がなかったので、ブレーキを踏みながら交差点に入りました。横山さんのバイクが見えましたが、まさか出てくるとは思いませんでした。横山さんは全く止まらずにそのままのスピードでぶつかってきました」
いかがですか?
どの過失割合で解決したと思いますか?
横山さんの主張が正しければ⑵なので「横山さん(バイク)55%、村上さん(車)45%」です。
村上さんの主張が正しければ⑶の「横山さん(バイク)80%、村上さん(車)が20%」です。
私も相手の示談担当者も悩みました。
本人たちには判例タイムズ(事故の判例集)を送付してありますので、それぞれの主張が過失割合を大きく左右することを承知しています。
横山さんも村上さんも自分の主張を全く譲ることはありませんでした。
アジャスターさん(車の専門家)に現場検証をしてもらっても、バイクと車の傷を見てもらってもそれぞれの主張を裏付けるものは出てきません。
そうやって揉めているうちに2ヶ月が経過し、結局示談した過失割合は⑴の「横山さん(バイク)65%:村上さん(車)が35%」でした。
根拠はありません。
「示談担当者なのに無責任な!」
と思うかもしれませんが、それぞれのスピードを立証できない以上は⑴の双方が同程度のスピードだったとみなして解決するしかないのです。
横山さんと村上さんは解決内容にかなり不満そうでしたが、「時間をかけても状況は変わらない」と考えて渋々納得しました。
せっかく皆さんに考えてもらったのにしっかりとした解答が出ずモヤモヤさせてしまいましたね。
実際の示談交渉の現場はこういうことが本当に多いのです。
一時停止無視の車と接触した場合の過失割合
事故状況はこちらです。
一時停止の標識がある道路を走行中のAとBが接触してしまいました。
こちらもバイクの時の同じく双方のスピードによって過失割合が異なります。
過失割合
(1) 両者が同じ速度
二人とも同じ速度で交差点に入り、接触した場合は「A80%:B20%」です。
(2)Aのみ減速、Bは減速せず
Aが減速をして、Bがスピードを緩めずに交差点に入った場合は「A70%:B30%」になります。
(3) Aは減速せず、Bのみ減速、
Aがそのままのスピードで交差点に入り、Bがブレーキを踏みスピードを緩めていた場合は「A90%:B10%」です。
(4) Bが一時停止後進入
Bが一時停止をしてしっかりと左右を確認した上で交差点に低速で入ったものの、Aの距離を見誤り接触した場合は「A40%:B60%」が適用されます。
修正要素はそれぞれ、著しい過失で10%、重過失で20%です。
これらの判例を見ると、バイクの時と同様に「スピードや一時停止の有無によって過失割合が変わるんだな」と思うかもしれませんが、実際のところ、示談交渉の現場で適用されるのは⑴のみ、です。
この事故形態はほぼ毎日と言っていいほど、新規案件として取り扱いますが、⑴以外の過失を適用して解決したことはありません。
著しい過失で10%修正することはあってもそれ以外は、ほぼないと言っていいでしょう。
理由はバイクの時にお話ししたように状況を立証することができないからです。
「じゃあなんて判例タイムズに載っているの?」と思いますよね。
私もそう思ったので新人時代に先輩にしつこく質問しましたが、こう言われました。
「じゃあどうやって証明するの?減速したって言っても目撃者がいる訳じゃないし、車の傷を見ても確証はないでしょ?お互いに言っていることが一致しているなら適用できるかもしれないけど、過失割合が不利になるとわかっていて自分に不利になる証言をする当事者なんていないでしょ?しょうがないの。これが納得できないなら裁判にするしかないんじゃない?」
新人時代の私は「ぐぬぬ」と言うしかありませんでした。
今となってはそれもしょうがないな、と思います。
もし、「両者とも同速度の80:20」以外の過失割合を適用しようと思ったら、バイクの事故に登場した横山さんと村上さんの案件のように揉めて長期間解決できなくなった上に、望み通りの示談内容ではない、という最悪の結果になってしまうことが多いのです。
だからドライブレコーダーが普及し始めた時「これでモヤモヤする解決から解放される」と喜びました。
しかし、実際にこの事故形態のドライブレコーダーの映像を何個も確認してみましたがほとんどが「両者同速度」なんですよね。
スピードを緩めた、と言ってもぶつかる直前だったり、一時停止した、と言っても全く確認せずに勢い良く飛び出していたりしました。
「結局20:80での解決が妥当なんだ・・」と悲しくなったものです。
とは言うものの、中にはドライブレコーダーの映像が決め手となり有利な内容で解決出来る案件もあるはずなので、自己防衛のためにドライブレコーダーを設置しておくことは、悪いことではないと思います。
揉めた時の強力な助っ人として弁護士特約に加入しておくとさらに心強いですよ。
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